2019年1月14日、平成31年度の税制改正大綱が自民党・公明党の与党から発表されました。今回の税制改正大綱では、来年に迫った消費増税による景気減速に備えて、住宅ローン控除(住宅ローン減税)期間の拡充が行われました。その内容について解説します。
平成31年度の税制改正大綱の住宅ローン関連部分の内容
平成31年度税制改正大綱
1 消費税率の引上げに伴う対応等
(1)需要変動の平準化に向けた取組み
平成31年10月の消費税率引上げに当たっては、平成26年4月の引上げの経験を活かし、経済に影響を及ぼさないよう、万全を期す。
住宅に係る措置
住宅に係る需要変動の平準化のため、平成32年末までの間、消費税率10%が適用される住宅取得等について、住宅ローン控除の控除期間を3年延長し13年間とする。その際、11年目以降の3年間については、消費税率2%引上げ分の負担に着目した控除額の上限を設ける。所得税額から控除しきれない額は、現行制度と同じ控除限度額の範囲内で個人住民税額から控除する。この措置による個人住民税の減収額は、全額国費で補てんする。
住宅市場に係る対策については、住宅投資の波及効果に鑑み、これまでの措置の実施状況や今後の住宅市場の動向等を踏まえ、必要な対応を検討する。
出典:自民党・平成31年度税制改正大綱
となっています。
消費税が増税されれば、当然ながら購買意欲は低下し、景気は冷え込みます。政府や日銀が掲げている物価の2.0%上昇も、また一段と遠ざかってしまいます。
しかしながら、社会保障費の増大で増税は避けられない状況であるため、減税などで急激な需要減を防ぐことを「需要変動の平準化」という言葉で説明しているのです。
需要変動の中で大きな役割を持つのが、一生で一番高い買い物とされる「家(住宅)」です。そのため、住宅ローン控除(住宅ローン減税)の強化というのが重要な政策として、掲げられているのです。
住宅ローン控除(住宅ローン減税)の強化の中身
平成31年度税制改正大綱
1 住宅・土地税制
(国 税)
〔延長・拡充等〕
(1)住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除について、次の措置を講ずる。
① 住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除の特例の創設
個人が、住宅の取得等(その対価の額又は費用の額に含まれる消費税等の税率が10%である場合の住宅の取得等に限る。)をして平成31年10月1日から平成32年12月31日までの間にその者の居住の用に供した場合について、住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除の特例を創設する。この特例は、適用年の11年目から13年目までの各年の住宅借入金等特別税額控除額を、次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める金額として、住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除の適用ができることとする。
イ一般の住宅(認定長期優良住宅及び認定低炭素住宅以外の住宅)の場合
次に掲げる金額のいずれか少ない金額
(イ)住宅借入金等の年末残高(4,000万円を限度)×1%
(ロ)〔住宅の取得等の対価の額又は費用の額-当該住宅の取得等の対価の額又は費用の額に含まれる消費税額等〕(4,000万円を限度)×2%÷3ロ認定長期優良住宅及び認定低炭素住宅の場合
次に掲げる金額のいずれか少ない金額
(イ)住宅借入金等の年末残高(5,000万円を限度)×1%
(ロ)〔住宅の取得等の対価の額又は費用の額-当該住宅の取得等の対価の額又は費用の額に含まれる消費税額等〕(5,000万円を限度)×2%÷3ハ東日本大震災の被災者等に係る住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除の控除額に係る特例の対象となる再建住宅の場合
次に掲げる金額のいずれか少ない金額
(イ)住宅借入金等の年末残高(5,000万円を限度)×1.2%
(ロ)〔住宅の取得等の対価の額又は費用の額-当該住宅の取得等の対価の額又は費用の額に含まれる消費税額等〕(5,000万円を限度)×2%÷3(注1)適用年の1年目から10年目までの各年の住宅借入金等特別税額控除については、現行と同様の金額を控除できることとする。
(注2)上記の「住宅の取得等」とは、居住用家屋の新築若しくは居住用家屋で建築後使用されたことのないもの若しくは既存住宅の取得又はその者の居住の用に供する家屋の増改築等をいうものとし、上記イ(ロ)、ロ(ロ)及びハ(ロ)の「住宅の取得等の対価の額又は費用の額」は、次のとおりとする。
イ当該住宅の取得等をした居住用家屋等のうちにその者の居住の用以外の用に供する部分がある場合には、当該居住用家屋等の床面積のうちに当該居住の用に供する部分の床面積の占める割合を乗じて計算した金額とする。
ロ当該住宅の取得等に関し、補助金等の交付を受ける場合又は直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税等の適用を受ける場合であっても、当該補助金等の額又は当該適用を受けた住宅取得等資金の額を控除しないこととする。
(注3)その他の要件等は、現行の住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除と同様とする。
出典:自民党・平成31年度税制改正大綱
となっています。
「消費税増税前の住宅ローン控除(住宅ローン控除)」と「消費税増税後の住宅ローン控除(住宅ローン控除)」の違いは
消費税増税前の住宅ローン控除(住宅ローン控除)
一般の住宅
控除期間:10年間
控除額:住宅借入金等の年末残高(4,000万円を限度)×1%
消費税増税後の住宅ローン控除(住宅ローン控除)
平成31年10月1日から平成32年12月31日まで
一般の住宅
控除期間:13年間
控除額:
1年目~10年目
- 住宅借入金等の年末残高(4,000万円を限度)×1%
11年目~13年目
次に掲げる金額のいずれか少ない金額
- 住宅借入金等の年末残高(4,000万円を限度)×1%
- 〔住宅の取得等の対価の額又は費用の額-当該住宅の取得等の対価の額又は費用の額に含まれる消費税額等〕(4,000万円を限度)×2%÷3
です。
簡単に言えば
増税で消費税が「8%」から「10%」に上がるため、増額の2%分を3年間で住宅ローン控除(住宅ローン減税)として還元するため
11年~13年目
住宅ローン控除額 = 住宅取得額 × 2.0% ÷ 3年間
という上限設定にしているのです。
住宅ローン控除(住宅ローン減税)の概要
対象物件 | 一般住宅 | 認定住宅 |
---|---|---|
居住年 | 平成26年4月~令和4年12月 | 平成26年4月~令和4年12月 |
年末残高の上限 | 4,000万円 | 5,000万円 |
控除率 | 1.0% | 1.0% |
控除期間 | 10年 | 10年 |
所得税控除上限/年 | 40万円 | 50万円 |
住民税控除上限/年 | 13.65万円/前年課税所得×7% | 13.65万円/前年課税所得×7% |
主な利用条件 | 10年以上の住宅ローンを組むこと 床面積50㎡以上 中古住宅の場合は耐震基準に適合すること | 10年以上の住宅ローンを組むこと 床面積50㎡以上 認定長期優良住宅・認定低炭素住宅であること |
消費税10%の増税後の住宅ローン減税
対象物件 | 一般住宅 | 認定住宅 |
---|---|---|
居住年 | 平成26年4月~令和4年12月 ※注文住宅の契約:令和2年10月1日~令和4年9月30日までに契約締結 ※分譲住宅の契約:令和2年10月1日~令和4年11月30日までに契約締結 | 平成26年4月~令和4年12月 ※注文住宅の契約:令和2年10月1日~令和4年9月30日までに契約締結 ※分譲住宅の契約:令和2年10月1日~令和4年11月30日までに契約締結 |
年末残高の上限 | 4,000万円 | 5,000万円 |
控除率 | 1.0% | 1.0% |
控除期間 | 13年 | 13年 |
所得税控除上限/年 | 40万円 11年目~13年目は 「借入金年末残高(上限4,000万円)の1%」か「建物購入価格(上限4,000万円)の2%の3分の1」のいずれか小さい額 | 50万円 11年目~13年目は 「借入金年末残高(上限5,000万円)の1%」か「建物購入価格(上限4,000万円)の2%の3分の1」のいずれか小さい額 |
住民税控除上限/年 | 13.65万円/前年課税所得×7% | 13.65万円/前年課税所得×7% |
主な利用条件 | 10年以上の住宅ローンを組むこと 床面積50㎡以上 所得1,000万円以下は床面積40㎡以上 中古住宅の場合は耐震基準に適合すること | 10年以上の住宅ローンを組むこと 所得1,000万円以下は床面積40㎡以上 認定長期優良住宅・認定低炭素住宅であること |
増税前と増税後の住宅ローン控除(住宅ローン減税)の計算例
- 購入額:3,200万円
- 借入額:3,000万円
- 事務手数料:66万円(税込)
- 借入期間:35年
- 金利:1.0%
増税前の住宅ローン控除額
- 消費税:8%
- 購入額:3,456万円
年 | 元金残高 | 最大控除・減税額 |
---|---|---|
2018年 | 29,940,315 | 299,403 |
2019年 | 29,220,195 | 292,201 |
2020年 | 28,492,843 | 284,928 |
2021年 | 27,758,185 | 277,581 |
2023年 | 27,016,145 | 270,161 |
2023年 | 26,266,649 | 262,666 |
2024年 | 25,509,626 | 255,096 |
2025年 | 24,745,000 | 247,450 |
2026年 | 23,972,691 | 239,726 |
2027年 | 23,192,624 | 231,926 |
合計 | - | 2,661,138 |
- 住宅ローン控除額:2,661,138円
増税後の住宅ローン控除額
- 消費税:10%
- 購入額:3,520万円
年 | 元金残高 | 最大控除・減税額 |
---|---|---|
2018年 | 29,940,315 | 299,403 |
2019年 | 29,220,195 | 292,201 |
2020年 | 28,492,843 | 284,928 |
2021年 | 27,758,185 | 277,581 |
2023年 | 27,016,145 | 270,161 |
2023年 | 26,266,649 | 262,666 |
2024年 | 25,509,626 | 255,096 |
2025年 | 24,745,000 | 247,450 |
2026年 | 23,972,691 | 239,726 |
2027年 | 23,192,624 | 231,926 |
2028年 | 22,404,720 | 224,047 |
2029年 | 21,608,900 | 216,089 |
2030年 | 20,805,085 | 208,050 |
合計 | - | 3,309,324 |
- 住宅ローン控除額:3,309,324円
2018年~2030年は、〔住宅の取得等の対価の額又は費用の額-当該住宅の取得等の対価の額又は費用の額に含まれる消費税額等〕(4,000万円を限度)×2%÷3という条件が入るので
購入額:3,520万円 - 消費税:320万円 - 事務手数料:66万円 × 2% / 3 = 209,009円
ですので、2028年と2029年は入れ替わって
年 | 元金残高 | 最大控除・減税額 |
---|---|---|
2018年 | 29,940,315 | 299,403 |
2019年 | 29,220,195 | 292,201 |
2020年 | 28,492,843 | 284,928 |
2021年 | 27,758,185 | 277,581 |
2023年 | 27,016,145 | 270,161 |
2023年 | 26,266,649 | 262,666 |
2024年 | 25,509,626 | 255,096 |
2025年 | 24,745,000 | 247,450 |
2026年 | 23,972,691 | 239,726 |
2027年 | 23,192,624 | 231,926 |
2028年 | 22,404,720 | 209,009 |
2029年 | 21,608,900 | 209,009 |
2030年 | 20,805,085 | 208,050 |
合計 | - | 3,287,206 |
- 住宅ローン控除額:3,287,206円
となります。
費用負担を比較すると
増税前
- 負担額 = 購入額:3,456万円 - 事務手数料:64.8万円- 控除額:2,661,138円 = 31,250,862円
増税後
- 負担額 = 購入額:3,520万円 - 事務手数料:66万円- 控除額:3,287,206円 = 31,252,794円
その差:1,932円
という結果になっています。
当然ですが、増税分の2.0%を3年で還元する住宅ローン控除期間の延長なので、ほぼほぼ負担額は変わらない(平準化)する仕組みとなっているのです。
それでも、増税後の方が費用負担が増えているのは、前述した計算例では、2030年は、消費税増税分の還元よりも、住宅ローン残高の1.0%の方が金額は小さくなっていて、そちらが採用されてしまうので「増税分を還元しきれなかった。」というのが結果として出てきているのです。
増税後に買うべきか?増税前に買うべきか?
市場環境を計算に入れなければ
- 大きな変動はない
- ただし、住宅ローンの借入額が少ない人ほど、2.0%の還元が受けられない可能性が高くなるため、増税後は損をする
- 13年よりも、短い住宅ローンの借入期間の方は増税後は損をする
計算になります。
「需要の平準化」を政府は目指して、制度設計しているため、当然と言えば当然ですが・・・
この計算以外に考慮しなければいけないポイントがいくつかあるので注意が必要です。
注意点その1.金利の上昇リスク
住宅ローン金利は、徐々に上昇する様相を呈しています。
その理由はいくつかありますが
- 日銀の金融緩和が限界にきている
- 米国も、欧州も、金融緩和を正常化した
ということから、日銀の金融緩和も、徐々に正常化させざるをえない可能性が高く、ゆるやかに金利が上昇する可能性が高いのです。
注意点その2.駆け込み需要と増税後の冷え込み需要による物件価格の変動
いくら需要を平準化しようとしても、購入時に消費税がかかるので・・・
と考える方の方が圧倒的に多いのです。
不動産業者としては
「増税後は、需要が冷え込むため、物件価格を値引きしないと物件が売れない」
と考えるのです。
注意点その3.未来のお金の方が価値が高い
「今もらえる100万円」と「10年後にもらえる100万円」では、「今もらえる100万円」の方が価値が高いのです。
なぜなら、今100万円もらえれば、金利0.3%の定期預金に10年預けたとしたら、単純計算をすれば10年後は「103万円」に増えている計算になります。
と考えるのは間違えで、実際には
と考えるべきなのです。
結論
- 増税前でも、増税後でも、大きな費用負担の変動はない
- 増税後は、金利の上昇リスクがある反面、駆け込み需要の反動で物件価格が下がる可能性が高い
のですから、
増税前に焦って買うものではなく、「資産価値」「今後の暮らし」「ライフプラン」「予算」など多角的に検討したうえで、自分にあった物件が見つかったタイミングで、マイホームを購入すべきなのです。
金利動向や政策に注目することは大切なことですが、「自分に合った物件を見つける」ことの方が何倍も重要なことですので、物件の検討に力を注ぐスタンスでいれば、良いと考えます。