フラット35の審査は、民間銀行の住宅ローン審査とは、全く違った側面を持っています。今回は、フラット35の審査について解説します。
フラット35の審査の仕組み
フラット35の仕組み
住宅金融支援機構とは
独立行政法人とは
です。
「独立行政法人」と言っていますが、全然独立しておらず、経営計画の策定や業務の運用チェックは監督官庁が行うため、「国の機関」と言って差しつかえない組織です。
住宅金融支援機構を噛み砕いて説明すると
と言えます。
フラット35の審査の事務手続きの流れ
フラット35を販売している銀行が採用しているのは「買取型」という仕組みです。
そのため、審査の手順としては]
- 【住宅ローン利用者】銀行にフラット35の申込をする
- 【銀行】住宅ローン利用者の申込内容を審査する「融資審査」
- 【銀行】「融資審査」が通過したら、住宅金融支援機構に「買取申請」をする
- 【住宅金融支援機構】申請された債権について「買取審査」を行う
- 【住宅金融支援機構】「買取審査」に問題がなければ「買取承認」する
- 【銀行】住宅金融支援機構が買取可と判断したら「融資」を行う
- 【銀行】「融資」を行ったら住宅金融支援機構へ債権の譲渡を行う
- 【住宅金融支援機構】債権を証券化し、投資家に販売する
- 【投資家】証券を購入して代金を支払う
- 【住宅金融支援機構】銀行へ債権の買取代金を支払う
という手順になります。
つまり、フラット35の審査では
銀行が行う「融資審査」
- 申込内容
- 返済能力
- フラット35の基準に合致しているか?
の審査
住宅金融支援機構が行う「買取審査」
- フラット35申込者の信用状態
- フラット35の基準に合致しているか?
の審査
という2段階の「審査」が発生しているのです。
実はそうではありません。
理由は2つあります。
理由その1.銀行は貸し倒れリスクがないから、適当に審査を通してしまう
銀行は、フラット35に関しては「貸し倒れリスク」を負っていません。
フラット35は、住宅金融支援機構へ譲渡してしまうので「その後、完済されたかどうか?」はどうでもいいのです。
結果として
という、行動を取る銀行が少なくないのです。
実際にこの点は平成23年に会計検査院に指摘されています。
証券化支援事業における住宅ローン債権に係る審査について
国の経済対策の一環として、フラット35の制度拡充が行われたこともあり、フラット35の買取実績が急増している一方、不誠実な借受者が関係書類を偽造して十分な収入があると見せかけるなどして融資を受け、融資金を詐取するなどの不適正な借入れに係る案件(以「不適正案件」という。)や、融資実行日(債権買取日)から2年以内に、元利金の支払が満3か月以上延滞となった債権及び期限の利益喪失事由が発生したことにより全額繰上償還請求が行われた債権(以下「早期延滞案件」という。)が多数発生するようになっている。
金融機関による融資審査の状況
貴機構は、金融機関に対して説明会を実施して、配布資料(以下「説明会資料」という。)により、勤務先、収入等の虚偽申告による不適正案件で多く見られる手口の傾向を紹介し、それを踏まえて、不自然な点の有無を確認するためには、借受者が勤務先に在籍していることの確認(以下「在籍確認」という。)をどのように行うのが有効であるか、収入を証明するものとしてどのような書類の提出を求めるのが有効であるか、また、提出された書類のどのような点をチェックするのが有効であるかなどの具体的な審査方法等について説明している。
しかし、これらの審査方法等の実行状況について調査したところ、一部には融資審査の充実に積極的に取り組んでいる面が見受けられる金融機関もあるが、説明会資料で示されている上記のような各審査方法について、実行していない金融機関が各審査方法ごとに約8割から9割と大半を占めていた。
そして、調査した金融機関の約6割は、貴機構による要請を受けた後も、審査方法を特に変更していないとしており、また、説明会資料の金融機関内での周知状況をみると、確認できた34金融機関の約6割は、関係部署(審査部門、各支店・取扱店等)に対して十分に周知していない状況となっているなどしていた。
在籍確認を十分に行っておらず、勤務先等の虚偽申告を審査で把握できなかった事態や、収入の確認を十分に行っておらず、収入の虚偽申告を審査で把握できなかった事態の事例を示すと次のとおりである。
つまり
ということを言っているのです。
理由その2.住宅金融支援機構は「国の機関」だから、貸し倒れに対する意識が薄い
住宅金融支援機構で働く人は、国土交通省住宅局と財務省が管轄する独立行政法人ですから、「ほぼ公務員」です。
会計検査院の指摘には
貴機構による買取審査の状況
貴機構は、不適正案件の発生等を踏まえて、返済等に懸念があるものについては、全般的に買取審査を強化しており、それに加えて、不適正案件が多く発生した金融機関の特定の取扱店が取り扱った買取申請案件について、より慎重に買取審査を行うなどの対応を行っている。
しかし、貴機構は、前記のとおり、貴機構の要請等で示された具体的な審査方法の金融機関における実行状況を十分に把握していないこともあって、買取審査を行うに当たり、上記特定の取扱店に係る場合を除き、各金融機関がどのように融資審査を行っているかは考慮していなかった。
したがって、貴機構において、買取審査を実施するに当たっては、各金融機関における融資審査の実行状況を十分に把握した上で、有効な審査方法が実施されていない場合には、その実施について金融機関に働きかけを行ったり、買取審査を実施するに当たり、それを考慮して、より慎重な審査を行うなど、各金融機関における融資審査の状況を踏まえた効果的な買取審査を行ったりする必要があると認められる。
改善を必要とする事態
フラット35に関して不適正案件や早期延滞案件が多数発生している状況の下で、金融機関においては貴機構から示された有効な融資審査の方法が十分に実行されておらず、貴機構において、融資審査の状況を踏まえた金融機関に対する働きかけや効果的な買取審査が行われていなかったり、金融機関が十分な融資審査を行うよう動機付ける取組が十分でなかったりする事態は適切とは認められず、改善を図る要があると認められる。
となっています。
やんわりと書いていますが
金融機関に対する働きかけや効果的な買取審査が行われていなかったり
とある通りで、住宅金融支援機構自体も「買取審査が甘い」ということを指摘されています。
結果
フラット35の審査は、銀行と住宅金融支援機構の2段階の審査を採用しているが
- 銀行は、自行が貸し倒れリスクを負わないので、適当に審査をする
- 住宅金融支援機構は、公務員的な考え方なので、適当に審査をする
結果として「フラット35の審査は甘い」ということになり、
会計検査院が指摘するように
- 不適正案件(関係書類を偽造して十分な収入があると見せかけるなどの不適正な借入れ)
- 早期延滞案件(融資実行日から2年以内に、元利金の支払が満3か月以上延滞となった債権)
が多発してしまったのです。
平成24年時点の会計検査院の指摘の後は、「フラット35の審査も、ある程度は厳しくなった。」のですが
それでも、根本の問題点
- 銀行に貸し倒れリスクがないこと
- 住宅金融支援機構は、国の機関であり、公務員的な動きになってしまうこと
は、変わっていないので、依然として「フラット35の審査は甘い」のです。
フラット35の審査基準
申込要件
- 申込時の年齢が満70歳未満の方(親子リレー返済をご利用の場合は、満70歳以上の方も申込み可)
- 日本国籍の方、永住許可を受けている方または特別永住者の方
返済負担率
年収 | 400万円未満 | 400万円以上 |
---|---|---|
基準 | 30%以下 | 35%以下 |
※年収は、原則として、申込年度の前年の収入を証する公的証明書に記載する次の金額となります。給与収入のみの方は「給与収入金額」、それ以外の方は「所得金額」(事業所得、不動産所得、利子所得、配当所得および給与所得の所得金額の合計額)
※年間の合計返済額には、借入予定のフラット35、それ以外の住宅ローン、自動車ローン、教育ローン、カードローン(クレジットカードによるキャッシング、商品の分割払いやリボ払いによる購入を含む。)の返済額も含まれます。
資金使途
申込みご本人またはご親族がお住まいになる新築住宅の建設・購入資金または中古住宅の購入資金
借入額
100万円以上8,000万円以下(1万円単位)で、建設費(土地取得費含む) または購入価額(店舗、事務所などの非住宅部分の非住宅部分を除く)以内
借入期間
15年(申込みご本人または連帯債務者が満60歳以上の場合は10年)以上
かつ、次の(1)または(2)のいずれか短い年数(1年単位)が上限となります。
(1)「80歳」-「申込時の年齢(1年未満切上げ)」
(2)35年
※年収の50%を超えて合算した収入合算者がいる場合には、申込みご本人と収入合算者のうち、高い方の年齢を基準とします。
※親子リレー返済をご利用の場合は、収入合算者となるか否かにかかわらず、後継者の年齢を基準とします。
借入対象となる住宅
- 住宅金融支援機構が定めた技術基準に適合する住宅
- 住宅の床面積が、次表の基準に適合する住宅
- 一戸建て住宅、連続建て住宅および重ね建て住宅の場合 70㎡以上
- 共同建て住宅(マンションなど)の場合 30㎡以上
※店舗付き住宅などの併用住宅の場合は、住宅部分の床面積が非住宅部分(店舗、事務所など)の床面積以上であることが必要です
※連続建て住宅:共同建て(2戸以上の住宅で廊下、階段、広間などを共用する建て方)以外の建て方で、2戸以上の住宅を横に連結する建て方
※重ね建て住宅:共同建て以外の建て方で、2戸以上の住宅を上に重ねる建て方
- 住宅の建設費(土地取得費に対する借入れを希望する場合は、その費用を含む。)または購入価額が1億円以下(消費税を含む。)の住宅
- 敷地面積の要件はありません。
住宅金融支援機構が定めた技術基準とは?
実はフラット35の審査で重要になるのは、この「住宅金融支援機構が定めた技術基準」です。
住宅金融支援機構が定めた技術基準
新築住宅の技術基準の概要
条件 | 一戸建て住宅等(※1) | マンション |
---|---|---|
接道 | 原則として一般の道に2m以上接すること | |
住宅の規模(※2) | 70㎡以上 | 30㎡以上 |
住宅の規格 | 原則として2以上の居住室(家具等で仕切れる場合でも可)ならびに炊事室、便所及び浴室の設置 | |
併用住宅の床面積 | 併用住宅の住宅部分の床面積は全体の2分の1以上 | |
戸建型式等 | 木造の住宅(※3)は一戸建てまたは連続建てに限る | |
断熱構造 | 住宅の外壁、天井または屋根、床下などに所定の厚さ以上の断熱材を施工(断熱等性能等級2レベル以上) | |
住宅の構造 | 耐火構造、準耐火構造(※4)または耐久性基準(※5)に適合 | |
配管設備の点検 | 点検口等の設置 | 共用配管を構造耐力上、主要な壁の内部に設置しないこと |
区画 | 住宅相互間等を1時間準耐火構造等の界床・界壁で区画 | |
床の遮音構造 | – | 界床を厚さ15cm以上(RC造の場合) |
維持管理基準/管理規約 | – | 管理規約が定められていること |
維持管理基準/長期修繕計画 | – | 計画期間20年以上 |
※1 一戸建て住宅等には、連続建て住宅及び重ね建て住宅を含みます。
※2 住宅の規模とは、住宅部分の床面積をいい、車庫や共用部分(マンションの場合)の面積を除きます。
※3 木造の住宅とは、耐火構造の住宅及び準耐火構造(※4)の住宅以外の住宅をいいます。
※4 準耐火構造には、省令準耐火構造を含みます。
※5 耐久性基準とは、基礎の高さ、床下換気孔等に関する基準です。
中古住宅の技術基準の概要
条件 | 一戸建て住宅等(※1) | マンション(※2) |
---|---|---|
接道 | 原則として一般の道に2m以上接すること | |
住宅の規模(※3) | 70㎡以上 (共同建ての住宅は30㎡以上(※4)) |
30㎡以上(※4) |
住宅の規格 | 原則として2以上の居住室(家具等で仕切れる場合でも可)ならびに炊事室、便所及び浴室の設置 | |
併用住宅の床面積 | 併用住宅の住宅部分の床面積は全体の2分の1以上 | |
戸建型式等 | 木造の住宅(※5)は一戸建てまたは連続建てに限る | |
住宅の構造 | 耐火構造、準耐火構造(※6)または耐久性基準(※7)に適合 | |
住宅の耐震性 | 建築確認日が昭和56年6月1日以後(※8)であること (建築確認日が昭和56年5月31日以前の場合(※9)は、耐震評価基準などに適合) |
|
劣化状況 | 土台、床組等に腐朽や蟻害がないこと等 | 外壁、柱等に鉄筋の露出がないこと等 |
維持管理基準/管理規約 | – | 管理規約が定められていること |
維持管理基準/長期修繕計画 | – | 計画期間20年以上 |
※1 一戸建て住宅等には、連続建て住宅、重ね建て住宅及び地上2階以下の共同建ての住宅を含みます。
※2 マンションとは、地上3階以上の共同建ての住宅をいいます。
※3 住宅の規模とは、住宅部分の床面積をいい、車庫やバルコニー等は含みません。
※4 共同建ての住宅の場合は、建物の登記事項証明書による確認においては、28.31㎡以上あれば構いません。
※5 木造の住宅とは、耐火構造の住宅及び準耐火構造(※6)の住宅以外の住宅をいいます。
※6 準耐火構造には、省令準耐火構造を含みます。
※7 耐久性基準とは、基礎の高さ、床下換気孔等に関する基準です。
※8 建築確認日が確認できない場合は、新築年月日(表示登記における新築時期)が昭和58年4月1日以後とします。
※9 建築確認日が確認できない場合は、新築年月日(表示登記における新築時期)が昭和58年3月31日以前とします。
さらに詳しい住宅技術基準についてはこちら
フラット35の審査では
適合証明検査機関が、お客さまの住宅が上記の「技術基準を満たしているかどうか」をにチェックして、基準をクリアしていた場合に「適合証明書」が交付されます。
この「適合証明書」がないとフラット35での融資は受けられないのです。
フラット35の融資までの流れ
- 銀行へフラット35の申込
- 審査
- 審査結果の連絡
- 適合証明書の提出
- 融資契約
- 抵当権設定・登記
- 融資実行
フラット35が利用できるかどうか?は、この「適合証明書」が交付されるかどうかに大きく依存してくるため、住宅ローン利用者の返済能力よりも、購入する住宅の性能が技術基準をクリアしているかどうか?が重要なのです。
これを知るためには建設会社、不動産会社に購入予定の物件が「フラット35の技術基準をクリアしていて、適合証明書が取得できるのか?」を事前に聞いておく必要があります。
すでに販売されているマンションや建売住宅の場合は、完成している時点で適合証明書が取得できるのかどうかはわかっているはずです。
適合証明検査機関の検査は、設計段階から入るからです。
適合証明検査機関の検査の流れ
また、技術基準の難易度によって、利用できるフラット35のプランが変わってくるので注意が必要です。
「フラット35S」など、低金利のフラット35を利用するためには、より性能面で優れた住宅である必要があるのです。
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まとめ
フラット35の審査では
- 銀行の「融資審査」
- 住宅金融支援機構の「買取審査」
という2段階の審査が行われています。
しかしながら、
- 銀行は貸し倒れリスクを負わないので審査が適当
- 住宅金融支援機構は国の機関であり、収益性を求められる民間企業ではないので、審査が適当
という二重の問題があるため、「フラット35の審査は甘い」という状況が続いています。
- フラット35の審査が、民間銀行の住宅ローン審査よりも甘い
というのは間違えありません。
また、フラット35の審査では「住宅ローン利用者の返済能力」よりも、「購入予定の住宅が技術基準をクリアしているかどうか?」の方が重要になります。
「フラット35の審査は甘いって聞いたんだけど、どうして審査が甘いの?」
「フラット35の審査基準ってどこにあるの?」
・・・